「厚生年金は正社員だけが入るもの」というイメージを持つ方は多いかもしれません。しかし近年は、短時間労働者でも一定の条件を満たすと厚生年金に加入することになるなど、対象範囲が段階的に広がっています。
この記事では、厚生年金の加入条件、いわゆる「106万円の壁」、事業所規模要件の拡大、加入のメリット・デメリットを、日本年金機構と厚生労働省の公式情報をもとに整理します。
この記事でわかること
- 厚生年金の加入対象になる人
- 正社員の加入条件
- パート・短時間労働者の加入条件(106万円の壁)
- 事業所規模要件の段階的拡大
- 加入のメリット・デメリット
- よくある質問(FAQ)
まず結論
厚生年金は、会社員や公務員、私学教職員などが加入する公的年金です。加入する事業所(会社)に勤める人は、年齢や働き方に応じて自動的に被保険者になります。
要点をまとめると次のとおりです。
- 正社員は原則として全員が厚生年金に加入
- パート・アルバイトは「週の所定労働時間と所定労働日数」が正社員のおおむね4分の3以上であれば加入
- 短時間労働者でも、賃金・労働時間・雇用見込みなど一定要件を満たすと加入(特定適用事業所)
- 特定適用事業所の規模要件は段階的に拡大(51人以上の事業所まで拡大済)
- 加入すると将来の年金額が増える一方、保険料負担も生じる
短時間労働者の社会保険加入要件は俗に「106万円の壁」と呼ばれます。これは月額賃金8万8,000円(年換算約106万円)が加入要件の一つになっているためです。
正社員の加入条件
正社員(フルタイム勤務)の場合、加入する事業所が厚生年金の適用事業所であれば、原則として全員が厚生年金の被保険者になります。
適用事業所
- 法人事業所(株式会社・有限会社など)はすべて強制適用
- 個人事業所でも常時5人以上の従業員を使用する場合は強制適用(一部業種を除く)
- 強制適用ではない事業所も、従業員の半数以上の同意があれば任意適用が可能
被保険者の対象年齢
- 70歳未満の従業員が加入対象(70歳以降は厚生年金保険料は控除されない)
- 65歳以降も働き続ける場合、老齢年金の受給と厚生年金の加入が両立する場合がある
短時間労働者の適用条件(106万円の壁)
正社員のおおむね4分の3未満の労働時間で働くパート・アルバイトでも、次の要件をすべて満たすと厚生年金(および健康保険)の加入対象になります。
短時間労働者の加入要件
- 週の所定労働時間が20時間以上
- 所定内賃金が月額8万8,000円以上(年換算約106万円以上)
- 2ヶ月を超える雇用見込みがある
- 学生ではない(夜間学生・休学中の学生は除外規定あり)
- 特定適用事業所または任意特定適用事業所に勤めている
これらをすべて満たす場合に、社会保険の被保険者になります。
⚠ 「106万円の壁」は所定内賃金(残業代や賞与等を含まない基本給)で判定されます。年収全体の106万円とは少しずれる点に注意が必要です。
事業所規模要件の段階的拡大
「特定適用事業所」とは、短時間労働者の加入義務が課される事業所のことです。事業所の規模要件は次のように段階的に拡大されています。
| 時期 | 事業所規模要件 |
|---|---|
| 2016年10月〜 | 従業員数501人以上 |
| 2022年10月〜 | 従業員数101人以上 |
| 2024年10月〜 | 従業員数51人以上 |
ここで言う「従業員数」は、フルタイム被保険者と4分の3要件を満たす被保険者の合計です。短時間労働者そのものはカウントしません。
50人以下の事業所でも、労使合意があれば任意で適用事業所になることができます(任意特定適用事業所)。
加入のメリット・デメリット
短時間労働者にとって、厚生年金加入には次のようなメリットとデメリットがあります。
加入のメリット
- 将来受け取る年金が老齢基礎年金に加えて老齢厚生年金も加算される
- 障害厚生年金・遺族厚生年金の対象になる
- 健康保険にも加入できるため、傷病手当金・出産手当金などの現金給付の対象に
- 保険料は労使折半(会社が半分負担)
- 任意加入の国民年金第3号被保険者よりも将来の年金額が増える
加入のデメリット
- 月々の保険料が給与から控除されるため手取りが減る
- 配偶者の扶養から外れる場合がある
- 既存の家族の扶養手当が見直される可能性
短期的な手取り減と長期的な年金増のトレードオフを、生涯の収入バランスで判断する必要があります。
注意点
- 「106万円の壁」と「130万円の壁」は別物で、後者は健康保険の被扶養者認定基準
- 学生は原則として対象外だが、夜間・通信制・休学中は対象になり得る
- 派遣社員は派遣元の社会保険に加入するため、派遣元の事業所規模で判定
- 法改正で要件が今後さらに拡大される議論が進んでいる
- 個別判断は勤務先や年金事務所に確認を
よくある質問(FAQ)
Q1. 106万円を1円でも超えたら必ず加入ですか?
5つの要件をすべて満たした場合に加入になります。月額8万8,000円ぴったりを下回るよう労働時間を調整することで、加入を回避するという選択もできますが、その分将来の年金は増えません。
Q2. 厚生年金に加入すると国民年金はやめになりますか?
厚生年金は国民年金の2階部分に相当し、加入すると同時に国民年金にも自動的に加入する形になります(第2号被保険者)。これまで国民年金第1号として保険料を払っていた方は、勤務先の社会保険加入後は国民年金保険料の納付は不要になります。
Q3. 配偶者の扶養に入っていた人が加入対象になったら?
配偶者の健康保険の被扶養者および国民年金第3号被保険者から、自分自身が厚生年金・健康保険の被保険者に変わります。配偶者の扶養から外れる手続きも必要です。
Q4. 加入した方が得ですか、損ですか?
将来の年金額の増加分と、保険料負担で減る現在の手取りを長期で比較する必要があります。多くのケースで長期的にはプラスになりやすい設計ですが、世帯全体での税金・社会保険料負担で見ると、人によって判断が変わります。
Q5. パートで複数の会社を掛け持ちしている場合は?
それぞれの勤務先で加入要件を満たすかを個別に判定します。複数の勤務先で同時に被保険者になる場合は、自分で「二以上事業所勤務届」を年金事務所に提出する必要があります。
まとめ
厚生年金の加入条件のポイントを振り返ります。
- 正社員は原則全員が加入
- 短時間労働者は5つの要件(週20時間以上・月8.8万円以上・2ヶ月超の雇用見込み・学生でない・特定適用事業所)で加入
- 特定適用事業所の規模要件は段階的に拡大(現在51人以上)
- 加入で将来の年金は増えるが、現在の手取りは減る
- 「106万円の壁」と「130万円の壁」は別物
- 個別ケースは勤務先や年金事務所に相談
次のアクションとして、自分の勤務時間と所定内賃金を確認し、加入対象になるかどうかを試算してみましょう。最新情報は日本年金機構 厚生年金保険の適用と厚生労働省 社会保険適用拡大特設サイトで必ずご確認ください。
※本サイトは公的機関ではありません。制度の内容は年度や法改正により変わることがあります。個別の判断が必要な場合は、勤務先・年金事務所・社会保険労務士などの専門家にご相談ください。